5th fractal


明け方のブルーグレイ

夜も明けようとしているよ

輪郭の溶けた月に

彼女は戻って来ない、と

そんな予感を覚えた

 

忙しない日々は風のよう

休みなく吹き渡って

幸せになりたい、だとか

曖昧には想うけど

 

 My sweet home town

  ある夜誰かが歌ってた

  それは故郷を想う歌

 

 It's town where my heart will go

  心の帰りつく場所なんて

  僕にもいつか見つけ出せるかな

 

 

忘れていけばいいんだって

軽やかに人は云うけど

それじゃ例えばこの今日が

跡形もなくなるようで

 

止まった時間に置き去った

彼女との記憶さえも

手を取って歩いていくよ

仄明るい空の下

 

 My dear little girl

  ひとり憶えているのは

  どこか淋しい心地だけど

 

 She's waiting at rain's home

  君と抱えたその痛みまで

  僕は連れ出しゆけるのかな

 

 

ブルーグレイの夜明けに

色彩が目覚めていく

鮮やかな街が照らされたら

僕も顔を上げるよ

 

  My sweet home town

  ある夜誰かが歌ってた

  失くしたものと会える街

 

 It's town where my heart will go

  雨の辿り着くところで

  君とまた会うその日まで

 My sweet home

記憶の番人

雪に覆われたこの地にも

静かに朝が目を覚ます

今日の日付を書き記し

小さな歯車は動き出す

 

回り続ける記憶装置

僕は時を刻み続けている

 

 凍える時の彼方に残された

 この都市の記憶を守りゆく

 あの日の花の青さに紛れて

 君が忘れ去ってしまわないように

 

微睡むような淡い空

暮れた月日を含んでは

壊されていった追憶の

欠片が曖昧に降り積もる

 

回り続ける記憶装置

僕は過去を宿し続けている

 

 舞い散る雪も春には解け出して

 何処かへと流れてゆくのだろう

 幾つも淡い季節が過ぎようと

 僕は此処でずっと歌い続けよう

 

 真っ赤に燃えた戦火の灰になる

 この都市の記憶を守りゆく

 去り往く風の匂いに紛れて

 君が忘れ去ってしまわないように

 

 君は憶えていてくれるのだろうか

夜空の舟

夜空を一艘の舟が渡る

街明りも消えるころ

 

 「おやすみなさい」

 君がそう言って

 一つの今日が終わっていく

 

 良い夢を見て

 幸せな夢を

 明日がちゃんと来るように

 

囁く星屑の声の水面

祈りのようにゆらゆらと

 

 「おやすみなさい」

 僕もそう言って

 一つの今日が過去となった

 

 瞳を閉じて

 静かなる闇の

 眠りの中へ落ちていく

 

一日一日重ねる時が

鼓動の刻む歳月が

君の命となっていく

君の証になっていくから

白い花の秘密基地

あれはいつの事だったか

「秘密基地を作ろう」と

言い出したのは君だったかな

緑の眩しい季節だった

 

ずっと一緒にいようね、と

あの日約束したこと

今でも覚えているよ

覚えているのに

 

 白い花びらが高い空から

 降り注ぐあの場所に

 気付けば僕たちはもう行けない

 記憶の彼方に流されて

 

時間はいずれ終わること

そんなことも知らないで

まだ幼かった僕たち二人

ずっと続くと信じていた

 

 明日への期待を抱きながら

 過ごしていたあの場所に

 作った秘密基地はもうないんだ

 そんな小さな昔話

 

戻って来ない優しい日々を

瞼の裏に描いて

揺れる君の影が温かい

この思い出を抱えながら

 

 白い花びらが高い空から

 降り注ぐあの場所に

 気付けば僕たちはもう行けない

 記憶の彼方に流されて

 

 そんな小さな昔話

 ただの小さな昔話

くらげのなきがら

君が居なくなって

どれだけ経っただろう

君の声も思い出せないや

 

今日も海原の

潮は満ちては引いて

君だけが居ない世界

 

 君の愛も夢も

 残された言葉も

 その記憶さえも零れ落ちて

 

 いつしか誰しもが

 なくなるということ

 定められていることであるのに

 

 「ね、どうして終わりはある?」

 そう問うた僕の想いも

 泡になって消えていくよ

 水に溶けた死んだくらげのように

 

君が居なくても

月日は流れていく

ひとりきりも慣れてしまったな

 

空を渡りゆく

月も満ちては欠けて

また光る夏が来るの

 

 君の歌う歌も

 繋いだ指先も

 その時間さえも過ぎたことで

 

 いつしか君だって

 何処かへ消えること

 知り尽くしていたことであるのに

 

 「ね、どうして置いていくの?」

 そう問うた僕の痛みも

 泡になって消えていくよ

 水に溶けた死んだくらげのように

生体リズムの海

赤く燃え落ちた言葉が

青い冷静の谷で

滲んで溶けだしたら

ひとつ海が生まれた

 

寝静まっている水底

忘れていった過去に

捕らわれ続けている

胸は沈んだ

 

身体に刻まれた波に揺られている

私は一体誰であるの

 

孤独な魂に宿る衝動の歌

私は貴方になれやしないの

 

憧れと嫉妬

何処にも行けない

冷めた風の音

私は私で

 

繰り返すリズム

うねる感情と

この傷跡をも

抱えていくしか

ないの

 

泳ぐ泡沫は透明

暗く幻想が過る

砕けた影法師に

残る自我を捜して

 

固く揺るがない証を

見つけられないままでも

揺蕩い溺れるように

日々は続いた

コールドスリープ

冷たい氷の中で眠り続けていた

来ることのない明日の夢を見て

 

冷たい氷の中の心は動かない

喜びまでもを置き去っていった

 

物語の破片が 春の雪のように

 ぱらぱらと降っては

現在が眠りついて 夢なのかわからない

 うつらうつら彷徨い

長い眠りは続く 覚めた日々の向こう

 透明より優しく

わからないでいるのは 泣いた夜の温度

 今はまだ目を閉じる

 

冷ました氷点下で眠り続けていた

吐いた台詞さえ虚空に消えゆく

 

冷ました氷点下の身体はがらんどう

焦点の合わない世界を見つめても

 

狭い視界に映る 白と黒の景色

 ちらちらと瞬いて

感情が眠りついて 痛みさえわからない

 たださざめいただけで

幸福が遠くで 泡になって揺れる

 灰色へと霞んで

わからないでいるのは 止まぬ雨の末路

 もう一度目を閉じる

 

広く丸い空間で積み上がった言葉

時を止めた箱庭の幼少の夢と

途切れ途切れの童話が繋げられなくて

一抹の淡い靄が僕らを閉じ込める

僕らとタナトフォビア

眠る前に思うんだ

目を閉じたら このまんま

目覚めないかもしれないって

 

夜が過ぎて朝が来て

僕か君か どちらかが

取り残されていくとしたら

 

胸がちぎれてしまいそうだ

 

永遠はどこにもないから

僕らもいつか死ぬのだろう

身体も心も朽ちる空想が

暗い 暗い 影を落とす

 

未来には必ずはないから

明日もあると限らない

僕らもそのうち消えていくのさ

時の果てになくなってしまうんだってね

 

路肩に手向けられた花

死後を夢見る人々の声

ねえ、僕らだけは死なないと

約束してみせて、くれたら、いいのに

空を泳ぐくじら

紺碧の空をくじらは泳いだ

あてのない旅路

帰り着く場所を探しているんだ

幸せのために

 

空の底に行けば

貴方に逢えると信じているから

どうか忘れないでいて

独りはさみしいということを

 

すれ違う雲と語っては別れ

繰り返しながら

雨風の群れも振り切っていって

何処へでも行こう

 

いつか力尽きて

空の青さへと沈みゆくだろう

どうかその日が来たなら

ずっと待っていたと出迎えて

 

紺碧の空をくじらは泳いだ

雨音を聞く夜

雨が降る 深夜零時

常夜灯がぼんやりひかって

 

耳をすませば ゆるまる胸の糸

眠くなるまで雨音を聞く

 

きみも雨音を聞く夜はあるの?

きみと友達になれなかったまま

ぼくらふたりともひとりぼっちだね

ひとりのぼくときみを雨は包む

 

だから少しさみしくはなくて

だから少し雨はやさしい

rain's home

 なだらかに暮れる街に

 手を振れば 行かなくちゃ

 明日の道はどこだろうか

 歩いていく 生きるために

 

守れるものなど何もなくとも

私は旅をするのです

そしていつか帰る家を知るのです

知るのです

 

 青いかばん閉じたのなら

 鍵をかけ 前を見ろ

 昨の空を焼きつけて

 歩いていく 生きるために

 

失いつづける思い出だろうと

私は重ねゆくのです

そしていつか愛のもとへ帰るのです

帰るのです

 

 消えた記憶はどれだけあるだろう

 あとどれだけの時間があるだろう

 

  遠い、未だ遠くひかる

  雨の帰るところ

 

守れるものなど何もなくとも

私は旅をするのです

そしていつか

 

そしていつか帰る家で

待っていてくれますか